コト

七五三

大きめにプリントした3枚の写真をごついアルバムに貼り、無事に息子の七五三を終えた。

七五三は自分で撮影することに決めた。理由はシンプルで、上手に撮影してくれるプロカメラマンは星の数ほどいても、ファインダー越しに注ぐ息子への愛情の量では誰にも負ける気がしなかったからだ。あとは、これが親父としてできる数少ないことのひとつだから。

たしかに写真館での撮影も素敵だと思う。写真館に行くという体験自体に特別感があって、思い出に残るはずだし。

でもまぁ、写真を撮ることが好きな親父のもとに生まれてきた息子には申し訳ないけれど、これはもう宿命として受け入れてもらうしかない。

今回、一生に一度しかチャンスがないという緊張感と撮影機材を背負い、おまけに紋付の羽織袴を着て挑んだ。

息子をはじめ家族一同、当日体調を崩さず、雨が降らず、急に便意を催さず、機嫌よく、撮影現場の予期せぬ状況変化がなく……と、無事に良い撮影ができるのは奇跡が何重にも重なる必要がある。

もちろんできる限りの対策はした。雨天の場合、室内撮りに切り替えられるよう古民家を借り、退屈対策に100均のおもちゃを仕込み、神社へはロケハンに2回も足を運び、息子が飽きないようにすぐ撮影できるよう立ち位置を確認しておいた。前日のロケハンには父を連れ出した。ファインダーを覗き「いいねー、いいねー!」と言いながら齢70を超えた爺さんにシャッターを切り続けている姿が、まわりの参拝客の目にどう映ったのかはあまり想像したくない。

ただ、ここまでやると運を天にまかせてあとは野となれ山となれ、と思えるようになる。

そして、当日。

天気は良好! 息子の体調も良好! 便意もクリア!(むしろ、自分が着付けをしてもらうとき、ぽってりしたお腹を紐でギュッと縛ってくるもんだから催してしまい、履きかけた袴を脱いでトイレに駆け込むハプニングが発生した)

奇跡の三重奏!と思いきや、現場に入ると父を撮っていたロケハン時とだいぶ状況が変わっていた。

何組かの七五三家族が出張カメラマンに撮影してもらっていて、境内混雑(そりゃそうだよなぁ)。さらに、ここから撮るぞと思っていた場所にはクルマが駐車してあり、バッチリ写真に収まる位置におばあちゃん2人が座ってひなたぼっこしている。ハードとソフトな動かざるもの、山のごとし。

とりあえず、動かざるものはあきらめて、ベストを尽くした。

飽きてきた息子を千歳飴でなだめて、カシャカシャ。

どうにかこうにか撮影を終えた。

ここまで書いておいてなんだが、あくまでメインイベントは神様への感謝。数えで五歳を無事に迎えられたことへの感謝。

ご祈祷いただく拝殿にはカメラを持ち込まずに、息子の背中を眺めていた。

しかし、

ひと通りご祈祷が終わりかけたそのとき、神主さんが「はい。じゃぁ、お父様、お母様、ここからは記念に撮影いただいても構いません」とのたまう。

うぉい!!ここでまさかの丸腰!!

爺!てつはうを!てつはうを持てい!

外で待っている父に預けていたカメラを投げてもらい、それを羽織袴姿の自分がダイビングキャッチし、勢いでぐるんぐるん転がりながら止まったところで、息子にシャッターを切るという画が頭をよぎる。

現実には、父に預けていたカメラをダッシュで受け取ると、単焦点の135mmという望遠域のレンズがついたままであることに気づき、狭い拝殿でどうやって使うねん! と、あたふたしながら数カット撮ったのがせいぜい。

でも、こんなこともまた思い出に色を添えたのである。

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